迷えるイカ記

洋楽オルタナティヴロック、イラスト、そのたいろいろなものがたり

左腕を槍の様に刺していた暑さが、夕方にはすべてを紫色に染める

子供の頃に住んでいた家の近くには割と大きな川が流れていて、学習机に向かうと窓からその川が見え、夕暮れ時に、山に沈んでいく夕日が照らし出す川岸の景色をボンヤリと眺める事があった。 思春期の頃はその景色を見ながら聴いてる音楽の世界に浸るのが好きだった。 1988年に発売されたU2のRattle and Humと言うアルバムが好きで何度も何度も聞いた。そのアルバムの中に、 アメリカのハートランド(アメリカ中西部)の朝焼けを描いた、Hartlandと言う曲があり、その曲と窓から見える景色を重ねていた。 アメリカ大陸を縦断する大河ミシシッピー川で朝を迎え、太平洋、そして北海道を過ぎ日本の西の端で日本海に流れていく二級河川を超え山の向こうへ沈んでいく太陽。 その景色を、劣化で塗装が殻のようになって剥げそうな、転落防止の柵越しに、どこか寂しさを感じながら見ていた。 Rattle and Humは、アルバム全体がアメリカの南部の雰囲気があり、ちょっと物悲しい自然の景色とマッチするのだ。そのアパートからは 引っ越しをして、そのあとは結婚して関東に来たので、その景色は見る事が出来なくなったのは寂しい。その景色がだんだんとボンヤリと記憶から薄れていくのも寂しい。
夕焼けの映る雲が不吉な色をしながら車に迫り、その怖いくらいに美しい風景を仰ぎながら車で家路に向かうのは寂しい。 関東に来ても結婚しても夕日が寂しさとともに襲ってくるのは相変わらずだ。でも寂しいのは嫌いじゃない。まだ結婚してない時に、夫と別れたあとに空港で夕日を見ながら「あぁ私はこの人を好きなんだ」と思った事を忘れさせないでくれるから。

ハートランド

ハートランド